「美術史を研究する要諦は、過去を記録することに止まるものではありません。ぜひとも未来の美術を造りだす下地となるべきなのです。すなわち、我われは未来の美術を今造りつつあるわけです。」(序論)
　近代日本画の精神的指導者として、横山大観、下村観山、菱田春草などを育て、『茶の本』『東洋の理想』などの著書でも知られる岡倉天心(覚三)による明治二十四年から東京美術学校(現・東京藝術大学)で行なわれた講義のうち、「序論」「推古以前」「推古時代」の現代語訳。歴史上初めて語られた体系的な日本美術史でありながら、単なる作品の来歴や事実の列挙ではなく、新しい日本美術を造り出そうとする若い芸術家に向けて創造の糧を提供することを目指した、熱いエネルギーに満ちた講義です。本編では、日本美術の黎明と草創期について、法隆寺夢殿の秘仏開扉など、自身の体験も交えて語られます。また、飛鳥文化の背景としての中国・六朝の文化についても詳しく説明し、東洋美術の根本精神を解き明かしています。