(冒頭部より抜粋)
精神科医として20年近く仕事をしているものの、そのキャリアでもなお「さっぱり意味の分からない精神の異常」があることが、私は悔しくてなりませんでした。
しかし多くの精神科医は、その存在に興味がないか、存在そのものを知りません。
なぜなら、そうした「意味の分からない精神異常」を示す人は、基本的に精神科医の目には留まらないからです。
精神科医の中でも“物好き”に該当するだろう私は、精神病院での勤務を辞め、刑務所での勤務を始めました。
そしてそこでは、通常の診療ではめったに出会わない「特殊な人格」を診察する機会に恵まれました。
刑務所に勤務する中で、私はこうしたエキセントリックな人を観察し、一部の受刑者に対しては、問題行動を改善する特殊な治療法を開発しました。
しかし残念ながら、どの治療法でも取り扱うことができない「極めて奇妙な人」「極めて奇妙な風習」「謎の関連性」が、こうした矯正施設では未だに発生しています。それは例えば、
・摂食障害(拒食症)と万引きの合併率が高い、という謎。彼らは激しく運動し、儀式的で奇妙な食事の取り方をする
・一日中、手を水に浸す人がいる。手だけでは飽きたらず、トイレを詰まらせ水を溢れさせ、床を水浸しにしてピチャピチャと全身を浸す
・トイレではない場所に小大便をする人がいる
…など。
また、刑務所とは違う場所にも「謎」は存在します。
たとえば往診先で見た“ゴミ屋敷”のケース。
ゴミ屋敷でのゴミの溜まり方にはいくつかパターンがあるのですが、その中でも“究極”と呼ぶにふさわしい、要塞化されたゴミ屋敷を見に行くと、そこの家主にはほぼ共通した性質があることに気付かされます。
ホームレスに関しては、私は往診する機会に恵まれませんでしたが、彼らの存在も「謎」と言えます。
医療や行政では引っ掛からず、警察が出向くようなトラブルも起こさない大人しいホームレスですが、福祉環境が整っている現代の日本において、そうした貧しく不安定な生活を続ける必要は、常識で考えれば“ない”はずです。
それなのになぜ、彼らは住居を捨て、路上に生きることを選んでいるのでしょうか?
視野を広げれば、分析不能な性質や性癖は、さらに多岐に渡ります。
たとえば恋愛や性に関する“変態性”。
変態性癖に関するデータ集計があるのかは分かりませんが、巷のアダルトビデオでは、常人には理解できないような変態性欲の動画が多数作られ、販売されています。
つまりこれらを購入する“変態性欲マニア”が、社会の至る所にいるわけです。
ファン心理が高じてストーカーになるケースや、“キモヲタ”と言われる一群のファン集団が生み出される現象など、社会性と性的嗜好の関連については、まだまだ解明できていない謎が多いと言えるでしょう。
こうした奇妙な人たち、奇妙な風習に対し、統一した分類や解釈法を考案することが、プロの精神科医としての義務であるように感じられたため、私はこの「PPMH式」の執筆に取り掛かりました。
「PPMH式」は、現代科学では解明されない奇妙な性格、性質の異常を、“野生の本能の発現”と見なすことで、一定の論理に落とし込もうとしています。
それは“とんでも(馬鹿げている)”な空想理論に過ぎないわけですが、本書ほど、異常な性格、異常な性癖、そして人格障害の関連を理路整然と分析できた書物は、他にないように思います。
いつの日か、この「PPMH式」の正当性が証明される日が来るのではないか…そんなことを、私はひっそり期待しています。
(目次)
第1章 「PPMH式」の原理
第2章 ヘンタイ分析の基本的な考え方
・群れ構造の三次元的解釈
・群れ構造の方向性
・4つの変態軸
・謎の性癖
・上方ヘンタイの特徴…拒食症とアヒル
・下方ヘンタイの特徴…ゴミ屋敷とフェティシズム
・前方ヘンタイの特徴…スポーツマンと強迫症状
・後方ヘンタイの特徴…キモヲタとホームレス
・ヘンタイと性犯罪
・ヘンタイの複雑化
第3章 変態性に基づく性格分類
・“「ヘンタイ」以外の”ヘンタイ分類
・「パリピ」のヘンタイ軸分析
・「メンヘラ」のヘンタイ軸分析
・「サイコパス」のヘンタイ軸分析
第4章 ヘンタイ分類と人格障害
・精神医学の不備
・「パリピ」群
・「メンヘラ」群
・「サイコパス」群
・「ヘンタイ」群
付録 「PPMH式カウンセリング」の提案