『邯鄲堂奇譚』では珍しい、鬼神の世界や過去の世界をモチーフにしたファンタジー。広目天と増長天が仏教に帰依した因縁譚、人間界へ下りるはるか昔に多聞天の心に忘れられない思い出を刻み込んだ出来事の物語。
『沈黙の代償』
増長天と広目天が仏教に帰依し、護法神となった過去譚。
はるか昔、二つの鬼神の大国があり、その一つで武を重んじる国の王弟ヴィルーパークシャーと第一大臣の長男ヴィルドゥハカは、幼い頃からの親友だった。
国を支える二本の柱と崇められ尊敬されていたが、ヴィルドゥハカが父の大臣と共に友好国の視察へ行った後、その国が裏切り、捕囚となってしまう。
親友を救い母国を守るために、王弟は国境で敵の将と一騎打ちになるのだが・・・。
様々な言うべきことを言わなかった沈黙、目を背けて逃げたための沈黙など、あらゆる沈黙が積み重なり、世代・国を超えて引き起こされた惨事をテーマとしている。
『雪のレクイエム』
珍しく山越に雪が降った日。佳彦は邯鄲堂の窓から雪を見ながら、昔のことを回想する。
釈迦如来の命を受け、ある仏教を信奉する隊商都市を脅かす怪物を退治に行くことになった。
怪物が巣くう山に入ったところ、選ばれた怪物退治の人間の戦士達と遭遇し、いやいやながら共に怪物退治へ行くことに。
山に不思議な気配を感じ、不審を抱きつつも様々な妨害者を退け、怪物に対峙した多聞天が知った真実とは?
『約束の酒杯』
『雪のレクイエム』の後日談。
多聞天と共に怪物退治へ赴いたアヌラーダは、老齢で死の床にあった。
恵まれた人生だったが、たった一つだけ心残りがあり、その約束を果たそうと考える。