『バンクキャット』……
銀行口座を管理するホストコンピューターに内在する、悪意ある不正プログラムを意味する隠語である。
外部からの不正アクセスではなく、システムの開発初期段階から、開発者も知らない間に埋め込まれた『天然物』である。
「他人の口座から勝手に金を引き出し、自分の口座に入れられる、夢のプログラム!」
しかも、システム内に「人間の腸に住む大腸菌」のように、平然と存在しているので、システムは不具合を感知せず、犯罪として立証される事も無い。セキュリティ理論上では不可能で、都市伝説とされてきたが、それを一九九一年に作り上げていた男がいた。
片桐雅弘(キリコ)、当時二十二歳の医学生だ。復讐の手段として、作り上げたのだ。
キリコは、十七歳の時に、幼なじみの佐々木彩乃の刺殺事件の容疑者に仕立て上げられ、警察による非合法な拷問を受けた。
完璧なアリバイがあり、容疑者が現行犯逮捕されているにも関わらずである。低レベルな、大人の汚い権力争いに巻き込まれたのだ。
拷問中、警察署内では別の事件も起きていた。拳銃の大規模な密輸取引が摘発されたが……警察のミスで、押収された拳銃が使われ、署内で激しい銃撃戦が行われる! 混乱の中、彩乃刺殺事件の容疑者で、キリコの担任教師でもある西野俊作が、何者かに射殺される。
キリコは、拷問の結果、内臓破裂の重傷を負い、殺されかけた。
しかし、権力によって、「バイクの無免許運転によるケガ」と改ざんされ、高校も退学処分となる。
キリコは、拷問を行った警官四人、それに共謀した教師三人に対し、復讐を決意する。
「大検を取って、医学部に行って医者になろう。オレの発言に『医学生なら信用出来る』という特権が生まれる。その特権を使って、バンクキャットを作る上での障害をクリアしよう。都市伝説を現実のモノにしてやる。そこからがオレの復讐の始まりだ」
猛勉強をし、現役と同じ年齢で、沖縄にある国立の琉球王国大学医学部に合格する。
思惑通りに特権を生かし、当時はまだ軍事用だった米軍のインターネット回線を経由して、開発中だった『銀行ATMネットワーク』にバンクキャットを送り込む。
キリコは、コンピューターマニアで、指先が非常に器用、そして銀行員の息子だ。
「お金は、社会生活に参加するためのチケット。金銭トラブルは、十年掛かって築いた人間関係を十秒で破壊する。全財産を一瞬で失った人は、必ず狂って何かやらかす」
キリコの読み通り、バンクキャットの餌食になった、警官四人と教師三人を含む合計十人は……自殺したり、ヤケになり銀行強盗をしたり、浮浪者になったりと、必ずしも直接に死んだりはしなかったが、社会的に抹殺された。
十人の人間を直接殺すとなると、二人か三人殺した時点で捕まってしまうが、バンクキャットでは全くバレなかった。
東京、沖縄、そしてサイバー空間を舞台に、一九八七年~二〇一一年までの約二十四年間で、様々な事件が続いた。しかし、全ての事件は迷宮入りした。
皮肉な事に、キリコは天才脳外科医として、社会的名声を得ていく事になる。
そして、バンクキャットはどんどん進化して、『人格を持つ電子生物』に育っていった……。
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