大学一年生向けの教養講義を書籍化しました。高校で日本史を学んだ学生も、そうでない学生も、予備知識の有無を問わず理解できる内容をめざしています。今回は、第五回講義として大正期の護憲運動、普選運動についてお話しします。
　はじまりは、一九一三年の第一次憲政擁護運動です。第三次桂太郎内閣がたおれた大正政変の別名です。おわりは、一九二四年の第二次憲政擁護運動です。清浦奎吾内閣が選挙でやぶれて加藤高明を首相とする護憲三派内閣が成立します。
　一九一三年が大正二年、一九二四年は大正十三年です。大正時代は十五年でおわりますから、ふたつの護憲運動にはさまれたこの十一年は、ほぼ大正時代に相当します。日露戦後の課題――参政権の拡大と国是の喪失――はいまだ解決をみていません。ここに桂園体制後の課題――民衆暴動と首相不足――がかさなります。大正は混迷の時代です。
　課題の解決の方向性はあきらかでした。普通選挙の導入と二大政党制への移行です。しかしその実現は容易ではありません。理論に現実がおいつかないからです。今回の講義では美濃部達吉と吉野作造をとりあげますが、同時にかれらの理論を実現する原敬政友会内閣と憲政会にも言及して、理想と現実の落差についても考えをめぐらせていきます。