本能寺の変で織田信長と運命を共にし、灰燼に帰したという天下無双の唐物茶入《九十九髪茄子(つくもなす)》。ところが、茶入は本能寺の変後、その焼け跡から奇跡的に発見されたという。果たして茶入の真贋やいかに……。
過去と現在の双方を舞台にストーリーが同時進行し、幻の茶入の行方に迫っていく。
過去において茶入を探し出すことを時の天下人、豊臣秀吉から依頼されたのは大名茶人、古田織部であった。織部は茶入を探すうちにいつしか本能寺襲撃の真相に迫っていく。
現代においては《九十九髪茄子》がロンドンのオークションハウスで競りにかけられるところから物語は幕を開ける。落札したのは実業家で茶道具蒐集家の岩森祐造であった。その数日後、岩森はロンドンの自然公園で何者かに刺殺され、茶入を強奪される。その事件の容疑者とされた静嘉堂文庫美術館館長、松平定伴は既に日本に帰国した後であった。
事件の捜査にあたるべく、ロンドン警視庁美術骨董課の捜査官マリア・キサラギ・ヒューズが日本に派遣される。茶道具の知識に疎い彼女は日本の警視庁の協力を仰ぎ、贋作を専門に扱う骨董商として知られる「げてもの堂」の店主、古河虎之助を紹介される。その偏屈ではあるが優れた審美眼を持つ骨董商と共にマリアは日本での捜査を開始するが……。
たった一つの茶入をめぐって相争う人間達の美に対する欲望と執念、業の深さが時空を超えた生と死のドラマを通して描かれる。
信長、秀吉、家康という名だたる天下人の間を渡り歩いた伝説の茶入をめぐり、謎が謎を呼ぶアート・ミステリー。
「美術捜査官マリア」シリーズ第2巻!