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How does it work in Paris 1: –A reading on the subsistence of a Dream town (Japanese Edition)
本書は２００５年10月から２００９年９月までパリに駐在し、『パリに吹くBoboの風』（第三書館）として出版した内容を改訂したものです。10年近くの歳月が過ぎましたが、今読み返しても基本的な社会構造は変わっていないと感じます。
――表紙は、雇用促進策「初期雇用契約」（ＣＰＥ）に反発して、オペラ通りで大規模デモを繰り広げるパリの若者たち
帰国後、強い違和感を抱いたのは、多くの日本人にとってパリおよびフランスは、グルメとファッションとアートがすべてで、日常生活のイメージが非常に薄い点でした。確かにパリは「芸術の都」ですが、そこばかりに焦点を当て、人々の経済・社会生活を見ないのはいかにももったいない。いや、ほとんどの日本人にとって「夢見る街」であるパリを追わない点で、私は相当な天邪鬼だと思います。ただ、その点をご承知のうえで、改めてパリの別の面を見ていただければと思います。
たとえば、パリ中心部のルーブル美術館とマレ地区に挟まれたレアル地区は、週末になると郊外からやって来るアラブ系とアフリカ系の若者たちにほぼ独占されています。北東部18区のベルビル地区は、かつてユダヤ系、アラブ・アフリカ系が入り混じっていたところに中国系が大挙して押し寄せ、混沌とした移民街となっています。パリの人々はそうした多様性を長い時間かけて受け止め、当然のこととして暮らしていますが、日本にはなぜか伝統的な白人ばかりの高級街サンジェルマン地区での買い物や食事の話ししか伝わってこない気がします。
「夢の街・パリ」も確かに存在しますが、パリの多くの人々が何を考え、何に悩み、何に希望を持っているか、もうすこし幅広い情報を提供できればと思いました。
日本とフランスの社会の最も端的な違いは失業率です。日本が５％弱（米国も５％前後）であるのに対し、フランスは過去15年ほど10％前後が続いています。また、フランスでは日本のように入社後職業指導するのでなく、身に付けた技術・技能によって就職が選別されるため、（技術・技能を持たない大卒、高卒の大半の）若者に限れば失業率は約20％、さらに名字や身地域名で振り落とされる移民系は40％以上とされています。
失業率が日本の倍以上、あるいは若者たちにとってはそれ以上に厳しいものとなると、社会の景色そのものが異なってきます。日本に来ているフランス人のある若者は、パリの印象をひと言で「怒り」と表現しました。もちろん、希望の職に就き、豊かに暮らしている人もたくさんいますが、パリには就職できない、あるいは非正規雇用や有期限雇用で働き、現状に不満を持っている若者が無数にいます。彼らは必然的に、日本の若者たちよりずっと政治的になっています。
近年、パリでイスラム国（ＩＳ）の若者により引き起こされたテロの遠因に、失業と生活苦から来る移民系若者たちの疎外感が指摘されています。白人の若者たちは移民系若者たちの苦境を十分知っていますが、自分たちも就職難に直面しており、なすすべもなく怒り、悩んでいます。
こうしたパリの若者たちの姿は、日本とは無縁でしょうか。私にはそうは思えません。長年、多人種が混住して来ている社会構成は基本的に大きく異りますが、日本でも既に非正規雇用で働く人々は街にあふれています。今後日本の人口が先細り、成長率が滞り、失業率が高進すれば、パリの若者たちの現状は明日はわが身、とならないとはいえません。
日本のデフレおよび不況は、バブル経済がはじけて以降、過去20年ほどの現象ですが、フランスではすでに半世紀以上も経済の長期低落傾向が続いており、私たちが彼らの経験から学べることは少なくありません。フランスがなぜ、これほど長期の景気低迷にあえいでいるかについても、本書の中でいくつかの論点を提示できたと思います。もちろん、ボボを巡る現状など仏社会の持つ多様性や、日本にない核を巡る安全保障での独立性なども紹介しています。
パリはもちろん、グルメとファッションとアートの都です。しかし、彼らから見れば東京や日本もまた、グルメやアニメやコスプレやゲーム、そして独自の伝統文化の都であり、魅惑の国です。本書が日本の若者にとって、パリの文化にあこがれるばかりでなく、日本の文化を振り返り、パリの現状から学ぶ一助となれば幸いです。
福永渓 １９５４年名古屋市生まれ。毎日新聞甲府支局、東京社会部、アフリカ特派員ハラレ支局長、同ヨハネスブルク支局長、ウィーン支局長、パリ支局長など。著作『パリに吹くBoboの風』（第三書館）、『南アフリカ 白人帝国の終焉』（第三書館）、『アフリカの底流を読む』（ちくま新書）など。著者のHPは http://www.fukui626.club/
『パリの仕組み 上』『パリの仕組み 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B01M6B9ME0
http://www.amazon.co.jp/dp/B01M9I86LY
『ウィーンの秘密 上』『ウィーンの秘密 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B00NABBLVS
http://www.amazon.co.jp/dp/B00NIH5WEG
『不連続曲線 上』『不連続曲線 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B00M197TD4
http://www.amazon.co.jp/dp/B00M3NM6P4
『アフリカの輪郭 上』『アフリカの輪郭 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B00MHWR1P6
http://www.amazon.co.jp/dp/B00MNMWURO
――表紙は、雇用促進策「初期雇用契約」（ＣＰＥ）に反発して、オペラ通りで大規模デモを繰り広げるパリの若者たち
帰国後、強い違和感を抱いたのは、多くの日本人にとってパリおよびフランスは、グルメとファッションとアートがすべてで、日常生活のイメージが非常に薄い点でした。確かにパリは「芸術の都」ですが、そこばかりに焦点を当て、人々の経済・社会生活を見ないのはいかにももったいない。いや、ほとんどの日本人にとって「夢見る街」であるパリを追わない点で、私は相当な天邪鬼だと思います。ただ、その点をご承知のうえで、改めてパリの別の面を見ていただければと思います。
たとえば、パリ中心部のルーブル美術館とマレ地区に挟まれたレアル地区は、週末になると郊外からやって来るアラブ系とアフリカ系の若者たちにほぼ独占されています。北東部18区のベルビル地区は、かつてユダヤ系、アラブ・アフリカ系が入り混じっていたところに中国系が大挙して押し寄せ、混沌とした移民街となっています。パリの人々はそうした多様性を長い時間かけて受け止め、当然のこととして暮らしていますが、日本にはなぜか伝統的な白人ばかりの高級街サンジェルマン地区での買い物や食事の話ししか伝わってこない気がします。
「夢の街・パリ」も確かに存在しますが、パリの多くの人々が何を考え、何に悩み、何に希望を持っているか、もうすこし幅広い情報を提供できればと思いました。
日本とフランスの社会の最も端的な違いは失業率です。日本が５％弱（米国も５％前後）であるのに対し、フランスは過去15年ほど10％前後が続いています。また、フランスでは日本のように入社後職業指導するのでなく、身に付けた技術・技能によって就職が選別されるため、（技術・技能を持たない大卒、高卒の大半の）若者に限れば失業率は約20％、さらに名字や身地域名で振り落とされる移民系は40％以上とされています。
失業率が日本の倍以上、あるいは若者たちにとってはそれ以上に厳しいものとなると、社会の景色そのものが異なってきます。日本に来ているフランス人のある若者は、パリの印象をひと言で「怒り」と表現しました。もちろん、希望の職に就き、豊かに暮らしている人もたくさんいますが、パリには就職できない、あるいは非正規雇用や有期限雇用で働き、現状に不満を持っている若者が無数にいます。彼らは必然的に、日本の若者たちよりずっと政治的になっています。
近年、パリでイスラム国（ＩＳ）の若者により引き起こされたテロの遠因に、失業と生活苦から来る移民系若者たちの疎外感が指摘されています。白人の若者たちは移民系若者たちの苦境を十分知っていますが、自分たちも就職難に直面しており、なすすべもなく怒り、悩んでいます。
こうしたパリの若者たちの姿は、日本とは無縁でしょうか。私にはそうは思えません。長年、多人種が混住して来ている社会構成は基本的に大きく異りますが、日本でも既に非正規雇用で働く人々は街にあふれています。今後日本の人口が先細り、成長率が滞り、失業率が高進すれば、パリの若者たちの現状は明日はわが身、とならないとはいえません。
日本のデフレおよび不況は、バブル経済がはじけて以降、過去20年ほどの現象ですが、フランスではすでに半世紀以上も経済の長期低落傾向が続いており、私たちが彼らの経験から学べることは少なくありません。フランスがなぜ、これほど長期の景気低迷にあえいでいるかについても、本書の中でいくつかの論点を提示できたと思います。もちろん、ボボを巡る現状など仏社会の持つ多様性や、日本にない核を巡る安全保障での独立性なども紹介しています。
パリはもちろん、グルメとファッションとアートの都です。しかし、彼らから見れば東京や日本もまた、グルメやアニメやコスプレやゲーム、そして独自の伝統文化の都であり、魅惑の国です。本書が日本の若者にとって、パリの文化にあこがれるばかりでなく、日本の文化を振り返り、パリの現状から学ぶ一助となれば幸いです。
福永渓 １９５４年名古屋市生まれ。毎日新聞甲府支局、東京社会部、アフリカ特派員ハラレ支局長、同ヨハネスブルク支局長、ウィーン支局長、パリ支局長など。著作『パリに吹くBoboの風』（第三書館）、『南アフリカ 白人帝国の終焉』（第三書館）、『アフリカの底流を読む』（ちくま新書）など。著者のHPは http://www.fukui626.club/
『パリの仕組み 上』『パリの仕組み 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B01M6B9ME0
http://www.amazon.co.jp/dp/B01M9I86LY
『ウィーンの秘密 上』『ウィーンの秘密 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B00NABBLVS
http://www.amazon.co.jp/dp/B00NIH5WEG
『不連続曲線 上』『不連続曲線 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B00M197TD4
http://www.amazon.co.jp/dp/B00M3NM6P4
『アフリカの輪郭 上』『アフリカの輪郭 下』（キンドル）は
http://www.amazon.co.jp/dp/B00MHWR1P6
http://www.amazon.co.jp/dp/B00MNMWURO