夢うつつの中、遠いところから「ポーッ」と汽笛が聞こえてきます。リズミカルで心地よい振動を体全体で感じながら、意識がしだいにはっきりしてきました。
「ここは、どこ？」
　いつもの、自分の家ではありません。
あ、そうだった。私は汽車に乗っているのでした。母に連れられて、大阪から東京行きの夜行列車に乗っているのです。
　三歳と九カ月という物心がつくかつかないかという幼い私が見た車窓の風景は、今もはっきりと記憶に刻み込まれています。山があって、その麓には積み上げられた材木。サラサラと振り続ける雪が材木の上に積もって、美しいコントラストを醸し出していました。
　東京には父の弟すなわち私からみれば叔父にあたる人が二人、祖母と一緒に暮らしていました。その日から私が加わって、四人での生活が始まるのです。
それは私のこれまでの人生で最も孤独な、そして寂しい生活の始まりでもありました。