深谷雷蔵４６歳は有名ではない大学を卒業して中堅どころの会社で仕事の鬼として家庭を犠牲にしてきた。妻との心の通いがなく二人の子供とも心の繋がりはなかった。人生はまったく面白くなくて当たり前だとあきらめていた。妻に愛想をつかれて離婚された後で小さな安アパートに住み、子供とは週に一度会うだけだった。

一人住まいに慣れてきたころに毎月忘れずに買う１０枚の宝くじの一枚が１億円当選した。家庭を失い急に大金を手にした雷蔵は退社して放浪の旅へ出た。ラスベガスで偶然に聡子と知り合い、東京へ戻ってからは聡子と同棲生活を始めた。

本多聡子３９歳は本多介護センターのオーナーとして成功し、高級マンションで一人暮らしをしていた。仕事に打ち込んだために男性とつきあう時間がないままで４０を迎えていたから、雷蔵は思いがけなく飛び込んで来た結婚の相手となった。

雷蔵は聡子のマンションで同棲生活に入った。雷蔵は自信がないのと人目を気にする性格のためにウソをつくことが多かった。仕事につかない理由は親から遺産を相続したのだと聡子に話していた。府中の競馬場と競艇場へ足を運ぶのが日課だった。同棲生活は心が優しいがこれといって能力が無い雷蔵にむいていた。多忙な聡子のサポートをしてギャンブルに浸ることは簡単だったが、納税した後に残った５千万円の銀行預金は日ごとに減っていた。

聡子と雷蔵がマンションの光熱費や生活費を折半していたので雷蔵の預金が急激に減っていくことは雷蔵の心を重くしていた。どうにかして収入を得ないと聡子は結婚をしてくれないと焦っていた。

毎朝エレベーターで出会う若夫婦と知り合いとなり、そのホームパーティーへ行くともう一組の若夫婦とも知り合った。雷蔵は府中の競馬場に勤める馬の調教師だと自分のことを言っていた。この男性３人がウエッブデザイナーと宣伝の専門家、それに馬の調教師であり、協力してグッドラック社を創立した。聡子はこの会社経営のために会計と顧客サービスを担当した。

聡子は老人介護センターの仕事よりもグッドラック社の仕事が楽しかった。雷蔵との生活を中心にして子供を持つ気持ちを大事にした結果介護センターは木村副社長に任せていた。

雷蔵が府中競馬場の裏地で夜通り魔に刺殺された。競馬場の駐車場にあった防犯カメラには登山ナイフを持って歩いている男が写っていたが、遠方だったので明瞭ではなかった。警察にはこれ以上の手掛かりがなく捜査は難航していた。聡子は会社の責務をそっちのけにして自分で積極的に通り魔を探していた。

聡子はグッドラック社をそのまま継続するように友人たちを説得して、介護センターをほっぽらかしてグッドラック社の経営だけに専心した。気晴らしに浜松にある乗馬場で乗馬を週末に習った。そこで倉敷と出会い、乗馬にたけているだけでなく過去に私立探偵の経歴を持つ男に惚れ込んだ。倉敷の助けを得て雷蔵の殺人犯を探すことに没頭した。

介護センターの木村副社長は社長が実質的に不在であることに大きな不満を抱えた。業界は過当競争に入り、大事な顧客が競合会社に取られて業界で最先端を行く本多介護センターの業績は急激に悪化していた。

木村副社長は株主総会の警護役として雇っていたやくざの組員に依頼して聡子を誘拐して自分の家に監禁することを企てた。誘拐直後に聡子が逃亡を図ったが、その過程で軽トラックにはねられて交通事故死をした。

倉敷は部長の職を捨てて不可思議なところで交通事故死をした聡子の死にまつわる真相を暴くために全力を尽くした。雷蔵の刺殺事件と関係があるのではないかと推測していた。聡子を一人で育てた母親と、仲が良く深い兄弟愛を持つ弟は悲嘆にくれた。警察はどちらの事件についても何の手掛かりも持っていなかった。

倉敷が現場検証をしたり、聞き込みをした結果少しずつ謎が解けて行った。聡子が誘拐された後で連れて行かれ、逃亡した時にはねられた場所は普段聡子が行く場所ではなかった。やくざの組員が聡子を誘拐したことをつきとめて、それを企てた人間を探し当てることに奔走した。

倉敷と警察が協力して情報を集めた結果雷蔵を刺殺した凶器が刺殺事件の場所にある高い塀の反対側に放り投げられていた登山ナイフだと血痕から断定された。この血痕のDNAと取っ手に見つかった指紋から犯人を確定することが可能となった。

倉敷は本多介護センターに出入りしていたやくざが木村副社長と頻繁に会っていたことを見つけ、捜査が一気に進展した。誘拐未遂の時に起こった交通事故は聡子が木村副社長の家から飛び出た直後だったことが近くの街灯に取り付けられていた防犯カメラで判明した。木村副社長が聡子の交通事故と何かの理由で関連していたことをつきとめた。

ギャンブラーの雷蔵と姉が結婚することに大反対していた聡子の弟は人気のない競馬場の裏の路地で雷蔵を待ち伏せし、大木の陰から飛びかかって後ろから登山ナイフで刺したことを自白した。結婚後に雷蔵が聡子を独占したために、聡子が母にも弟にも冷たくなったことで強い嫉妬心が生まれたのだ。DNA鑑定でこの証言が真実であることが確定された。