極東からヨーロッパ・ロシアへ帰る途上のホームズとワトソンは、同じ汽船に乗っていたキセリョーフという人物から、強盗や徒刑囚の間で神のように崇められているムーハ(蝿)の異名をとる脱走徒刑囚のことを聞かされた。この異名は彼がどんな牢獄からでも蝿のように跡形なく消えることができるこtからつけられたのだ。キセリョーフは二年前、偶然に逃走中の彼を匿ったことがあった。
同じ汽船の乗客に、出張中の警察署長クラプコもいた。目の前に有名な英国人探偵とその友人がいるとは夢に思わない彼は、ホームズとワトソンに、《七つの大罪》と呼ばれる郵便駅を経営し強盗を本業にしている七人兄弟のことを語った。彼らの標的は、タイガの奥深くで高価な鹿茸を手に入れる猟師や、公認されていない金鉱でかせぐ《捕食者》と呼ばれる鉱夫たちだった。クラプコはこの事件を解決するために派遣されたが、強盗兄弟の逮捕には懐疑的だった。この話を聞かされたホームズの中でプロの情熱が燃え上がっていた・・・・・・。
帝政ロシア末期の多作な大衆作家P・オルロヴェツ(本名ピョートル・ペトロヴィチ・ドゥドロフ、1872~1929)による、ユニークな「ロシア版ホームズ」短編集の三冊目『シベリアのシャーロック・ホームズ』(1909)から三つ目の短編を所収。