服部は左手で腰の脇差しを抜き、そして二刀を構えた。その瞬間、服部の全身から業火の如き激しい殺気が噴出した。
この時、藤堂は服部の姿に恐怖すら覚えていた。藤堂だけではない。四十名からの新撰組隊士が、一瞬身動きが出来なくなる程の殺気だった。
絶対多数で有利な筈の新撰組隊士達が、立ち尽くすたった一人の男を前にして恐怖の余り凍りついたのだ。
幕末期における最大の惨劇、七条油小路における真の血戦は、この瞬間に始まったと言っても過言ではなかった。
若者達が異なる信念の元に戦った時代、幕末。
日本が最も熱く、激しく動いていたこの時代において、最大の悲劇の1つとされる七条油小路事件。
約1年前までは同士だった者達が、敵味方に分かれて殺し合い、その双方にとって悲劇しか残さなかったこの事件は何故起きたのか。
新撰組から御陵衛士となった、新撰組最強の剣豪とも言われる服部武雄を中心に、この七条油小路事件までを描く、新しい時代小説です。