「薔薇の刺青(タトゥー)」
「姉のマリアンを探してほしいのです」、たどたどしい日本語で涙を浮かべた依頼人は、フィリピンからやってきた美貌のシンガー、テッシー・パドレスだ。保険事務所の下請け調査にうんざりすると、ついつい私は、こんな案件を受けてしまう。
日本人と結婚して永住権を手にしたマリアンは、どこへ消えたのか。昭和六十年の名古屋市を舞台に、外人タレントプロダクション、偽装結婚、など、裏社会を描いたハードボイルド作品である。
「自転車の夏」
青空文庫に収録された青春小説に加筆した作品。
一九七七年春、栗山肇・十九歳は、かろうじて滑り込んだ愛知大学で、右も左もわからぬうちに少林寺拳法部に入部した。高校三年間、天文部で望遠鏡を覗いていた肥満気味の少年が、マンガ家志望で受験中にもケント紙にペンを走らせていた生粋の文化系の学生が、体育会でも最右翼の武團連合といわれる厳しさで右に出る者のないクラブ・少林寺に入ってしまったのである。
「俺達、この四年間で恋なんてできるんだろうか…」
体育会の一年生の、恋や青春の葛藤や政治に対する怒りとは、全く無縁の疾風怒濤の毎日を描いたユーモア青春小説である。