本書は、訓点無しの漢文、つまり所謂白文読解の要領を通俗平易に述べたものでして、どこから読んでもらっても構いません。読めば読んだだけ漢文読解のコツが掴める様に工夫した積もりであります。出てくる文法用語などは名詞、動詞、主語、客語、修飾語など一般的なもので、しかもこれらを厳密な定義のもとに使うのではなく、通常普通に観念される意味にて用いてありますのでどうぞ肩肘張らずに読んでいただきたい。
【対象とする読者】
・ 漢文を初歩から学びたい方。
・ 結局のところどうやったら漢文(白文)が読めるのか、ということを知りたい方。
巷にある類書と大いに異なりますのは、「これはこう読み下す」式の説明ではなく、「これはこうもああも読み下せる」式の説明を心がけたことです。私が漢文を少しく真面目に勉強し始めたときにおおいに悩まされましたのは、大概の参考書の類はすでに一定の解釈を前提に読み下しをしておるために、最早他の解釈や読み下しの可能性に附きましては殆ど触れておらない。よって、こう訓んではいけないのか、ああ訓んではいけないのか、という疑問だけが残るというものでありました。このような勉強の仕方ですと、なかなか初見の白文を自信を持って読めるようにならない。そこで本書においては、一々読み下しの可能性を文法と解釈の両方面より述べるように致しました。すなわち、文法上はそうも訓めるが、解釈上こう訓むことになる、というようなやり方です。
凡そ漢文は、一通りにしか解釈し得ないということはありませんで、大抵文法上正当な幾通りの訓じ方が同時に存しておるものです。故に、読者の側が其の中からどの解釈が適当であるかを先ず決定し、そうして後その解釈に従って読み下すのです。解釈をしてから読み下すのであり、読み下したものを元に解釈するのではないのです。其の解釈と言うものは文法に依ると雖も、また文法は解釈に依って初めて定まるとも言えるのです。文法と解釈との両方を往きつ戻りつしながら読むのが漢文です。其の微妙な塩梅を本書を通して自得していただければ、一見どう読んでよいのか分からぬような漢文を相手にするも、こう読むのではあるまいか、いや文法上はそうは読めぬ、などと興趣をもって愉快に取り組めるようになります。
【目次】
◎漢文の読み方
◎漢文の基本的な組み立て方
◎~たり(自動性)、~とす(他動性)、~にす(他動性)
◎「有」「無」、「有」と「在」との違い
◎使動(使役)を表す方法
◎~之+動詞+(也)
◎動詞の格
◎動詞性名詞の格
◎動詞+(客語)+前置詞(以、於、自etc……)+客語
◎「者」について
◎動詞+(第一客語)(を・に)+第二客語(と)
◎漢文の構造
◎格について
◎格と相(被動、使動、比較など)との違い
◎「非」「匪」について
◎「何為」とは何か
◎「彼と遊ばない」と「彼とは遊ばない」
◎学問を為す所以(白文読解の実践)
◎学問の弊害(白文読解の実践)
◎連体修飾語+被連体語
◎客語(~を・~に・~と)が動詞(または前置詞)の上にある場合
◎原因・理由の表し方
◎「誰毀誰譽」の「誰」は、なぜ「誰が」ではないのか
◎「何」は動詞の下に来ないか
◎「可」の主語 (「足、難、易」も此れに準ず)
◎「可以」「足以」の句法
◎「所」の用法
◎「不~不~」は必ずしも「~せずんば、~せず」ではない
◎何、奚、安、悪、焉、曷、烏
◎文中の「也」も文末の「也」も本質に差無し
◎復文の練習
◎「不」などの否定語 + 代名詞 + 動詞
◎不必、必不
◎「君子去仁悪乎成名」を読み下す(塚本哲三氏『漢文解釈法』)
◎注釈と原文を較べる
◎感嘆の「何~也」(なんと~なことであろう)
◎蕩蕩乎、圉圉焉などは副詞にあらず、動詞なり
◎逆読は数学に於ける検算なり
◎其 + 動詞は概ね名詞化する
◎白文練習一(句読あり)
◎白文練習二(句読なし)
◎白文練習三(句読なし)
◎白文練習四(句読なし)、句読の切り方を論ず
◎白文練習五(句読なし)
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