近年、能力の高い外国人人材を使おうという日本企業が増えている。そのため、
「日本語ができてITやビジネスのわかる外国人人材」の育成が求められている。
そこで筆者は何回かベトナムを訪問し、ハノイの3つの大学の学生に対して、
日本語で講演を行った。また、その学生を対象に、facebook内に日本語で交流す
るための場(ネットコミュニティ)を設け、東京から日本語で遠隔授業や情報提
供などを行ってきた。本書の第1の話題として、これらの活動を紹介しながら、
日本の大学向けに、海外展開の手順を提示した。
遠隔授業のテーマとしては、アジア諸国との連携強化に貢献する「オフショア
ビジネス」を取り上げた。オフショアビジネスとは、日本の企業が人件費の削減
を目的として、ソフトウェア開発などのI T関連業務や、総務・経理・人事など
管理部門の事務処理業務、さらには、電話問合せ対応、データ入力などの種々の
業務を、賃金の安い外国企業に委託し、日本語で協同作業を行うというビジネス
形態のことである。
オフショアビジネスでは、発注国の言語である日本語で協同作業を行うため、
海外の受注企業は日本語のできる高度人材を大量に必要とする。逆に、オフショ
アビジネスは日本語のできる高度人材を育成し、海外における日本語の普及に貢
献する。本書の第2の話題として、このオフショアビジネスについて述べた。
次に第3の話題として、上記の「日本語による遠隔授業」と「日本語で協同作
業を行うオフショアビジネス」が、「日本とアジア諸国の国際連携」にもたらす
貢献について論じた。
想定する読者として、遠隔授業や大学の海外展開に興味を持つ教育者・研究者、
日本とアジア諸国との連携に興味を持つ実務家、日本語のできるアジア諸国の方
々などを考えている。
また、本書は単なるノウハウの書ではなく、アジア諸国との連携のための方策
を考える書として、読者の知的好奇心に応える読み物にしたつもりである。テー
マに直接関係のない一般の方々にも読んでいただければ幸いである。
【目次】
はじめに
第1章 遠隔授業による大学の海外展開
1.海外との遠隔授業のありかた
2.遠隔授業のための映像の作成
3.事例1:ハノイ市の大学生との遠隔授業
4.事例2:中国大連市の大学生との遠隔授業
5.授業管理システムを海外展開に使う意義
第2章 遠隔授業のテーマ:「オフショアビジネス」
1.オフショアビジネスとは
2.通信ネットワークと日本語の使用
3.オフショアビジネスの具体例
4.オフショアビジネスの特徴と今後の展開
第3章 遠隔授業とオフショアビジネスによる国際連携
1.遠隔授業とオフショアビジネスの利点
2.日本語ビジネス圏:ホアラック・ハイテクパーク
3.東南アジア各国との連携のための戦略
おわりに
【著者について】 伊藤 征一(eエデュケーション・プランナー)
2011年からフリーランスのeエデュケーション・プランナーとして、「ITを活
用した大学教育」を企画・実践している。現在は、ベトナムの大学生をメンバー
とする日本語ネットコミュニティを運営し、日本語で遠隔授業や情報提供などを
行っている。このほか、大学や一般向けに講演活動を行っている。
略歴
1944年中国大連市生まれ。早稲田大学第一理工学部数学科卒業。1968年から
21年間旧経済企画庁に勤務し、経済研究所主任研究官、物価局物価調査課長など
を務めた。その後、㈱セゾン情報システムズ常務取締役、星城大学教授をそれぞ
れ9年間務め、企業や大学におけるITの活用などの実務・調査に携わった。
その他、在ニューヨーク国際連合事務局に4年間、㈳日本経済調査協議会、
㈶環日本海経済研究所、㈳日本化学工業協会に各2年間勤務した。